彩のイメージ
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イネス
美容室の名前は「イネス」。
ポルトガルの昔話に出てくるあのイネスとは無関係らしい。

この町に来て2ヶ月。
新しい町に来て、いいお店に出会えるというのは素晴らしいことだ。
いい景色、いい匂い、道端に咲いている小さな花(何の花かは知らない)。
古い木造家屋の門柱にどーんと置かれた見るからに怪しい猫の置物。
新しく買ったカメラでとりあえず一枚、パチリ。
猫の家の3軒隣り、やっと見つけた。
重たそうな木の扉、廃材だろう緑色のパイプ椅子にメニューの書かれたホワイトボード。
普通に歩いていると見落としてしまいそうだ。
俺が美容室を探していたからこそ発見できたんじゃないだろうか。
というより、この店が美容室を探している人にしか見つけられないように仕組んでいるのか?
新しい町に来て、今日思い立って、リフレッシュしたい俺が偶然(必然?)見つけた店。
想像通りの重さだった扉を開けると、店内はまるでこぢんまりとしたカフェのような雰囲気。
手前のテーブルには美少女が座っていて、コーヒーか紅茶か何かを飲んでいる。
美少女にニコリと微笑まれた俺は、魔法でもかけられたようにくらくらした。

「トワリ、奥で飲みなさい。いらっしゃい、少年」

奥からのそのそと出てきたおっさんが、少年って歳でもない俺に微笑みかける。
後で聞いたらおっさんはまだ36歳だった。
こーしてあーしてと髪型を話し合いながら俺はいろんな発見をした。
まず、店内のBGMでルイス・ヘイズがかかっていること。
なんとも心地良い。
とても趣味のいいおっさんだ。
そしてさっきの美少女が飲んでいた飲み物の香り。
紅茶だったとわかるほど甘い、温かい香りが柔らかく立ち込めている。
不思議と美容室の匂いがしないので、俺は驚いた。
客こねーのか?ここは。
後で聞いたら一日2~3人しか来ないそうだ。
しかもその100%がリピーターで俺のようないちげんさんは1年振りらしい。
もう限界だーとおっさんは言っていた。

BGMは Uma Copacabana / Levy 。
髪を切ってもらいながらした話。
「イネス」は陸上競技の選手の名前からとったらしい。
マラソンだったか、走り幅跳びだったか。
そしてみなさんの名前。
俺の名前はシュン、瞬間の瞬。
嫁さんが未来と書いてミキ、娘は永久の里と書いてトワリ。
みんな「時」に関わる名前なんだよ、かっこいいだろ。
俺はこの瞬間を、ミキはその先を、トワリはそのずっとずっと先を、ってな。
瞬間を感じ取るというのはなかなか難しい。
感じた形を言葉に置き換えないと記憶に残すことも難しい。
でも大抵人間の感じることは言葉にした時点で何か物足りないものになっちゃうよなー。
言葉じゃ事足りない感覚がたくさんあるんだよ、きっと。
BGM?これは娘の趣味だ。
俺はもっと渋い選曲をする。
大人だから。
しかしあれだね、駅前にもあるでしょ、美容室。
あの眼球破裂しそうなくらい眩しい照明の(笑)
あそこは待ち時間にインターネットができるんだよ。
店員が目の前にいるのにインターネットで予約するんだってさ(笑)
まー地味だよ、そこと比べりゃ。

そう言いながらおっさんはすっと後ろに下がって
さっきまでトワリちゃんが腰掛けていたイスにもたれかかった。
「おーい、コーヒー」
おっさんはタバコに火をつけて、ってあれ?俺放ったらかし?
奥さんのミキさんがマグカップを2つ持って来た。
片方をおっさんに、もう片方を俺に。
「自家製金柑茶、おいしいよ~?」
カップを俺に渡すとミキさんは床に散らばった髪を掃いてまた奥へ。
コーヒーちゃう・・・俺これ甘いからイヤ・・・とブツブツ言っていたおっさんが再びハサミを上げる。
会話も落ち着いた頃、まるでこっちを窺いながら選んでいるように、いちいち素敵なBGM。
あー。afternoon tea の選曲と似ている。
「この曲は?知らない曲だ・・・」
「『STAY WITH ME』って曲、日本人が歌ってるんだよ?」
いつの間にかまた後ろのテーブルに座っていたトワリちゃんが教えてくれた。
なんてか細い声なんだろう、驚いて、胸がザワザワした。
ザワザワをかき消したのは次の曲 Ocean Beach / Black Mighty Orchestra 。
「これは俺の選曲だ、渋いだろう」
おっさんの方は悪趣味だ。

体は、心ごと、ゆっくり、ゆったり、沈む。
目に、皮膚に、心臓に、丁度良い、薄暗い、店内の、照明。
匂い、温度、会話のペース。
髪に触るときの力の加減からイスの感触まで。
こんなに落ち着いているのに、こんなに研ぎ澄まされて
感覚のすべてが喜んでいる。
開け放たれた中心に、優しい風のように流れて沁み込む音楽。
今、俺は、時間の、何処だ。
不思議な感覚。
なんだか概念を超えて、人と、空間と繋がる瞬間。
そういえば、おっさんの名前は瞬くと書いたか。
美しい名前だ。

後日、商店街でミキさんと会った時に笑われた。
あの人はすぐに作り話をするのよ。
こないだもお客さんに船舶免許を取ったって嘘ついてたし。
どこの海がよかったとか、あそこの島には10年に一度しか咲かない花があるとか
どこで調べてくるんだろうね、あーゆーの。
ちなみに旦那の名前は正しく太くで正太だよ?(笑)

俺は店を出たあと、思わず振り返って写真を撮った。
この貴重な時間を思い出せるようにと。
くそー、次行ったときは文句言ってやる。
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